2007年3月27日火曜日

ミラノ 『三つの都市』より
2006.11.26 00:35

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


        ミラノ


 石と霧のあいだで、ぼくは

 休暇を楽しむ。大聖堂の

 広場に来てほっとする。星の

 かわりに

 夜ごと、ことばに灯がともる。


 生きることほど、

 人生の疲れを癒してくれるものは、ない。



           訳:須賀敦子 
           『ウンベルト・サバ詩集』みすず書房 



 ウンベルト・サバの詩集をベッドサイドに置き、気が向くと読んでいる。
 というより、サバの詩の日本語訳を通して今は亡き須賀敦子さんの文章を読んでいる、
 たぶんそうだ。

 『コルシア書店の仲間たち』という一冊が、ぼくに稀有な文体に出会う
 幸運を授けてくれたのだった。

 あまりに短い作家人生だった。
 普通の生活者である眼差しがそのまま深い人生への
 啓示的洞察になっているような文章。
 いや。もっと普通にフツーなひとの文章なのに、
 読んでいるうちになんだか大変静かで不動の場所へ導かれていく、
 そんな文体だった。

 いっぺんで好きになった。
 こんなことは過去一度だけしかない。
 その一度も文章に対してではなかった。
 そのひとも詩人で、あっという間に生涯を終えたが。

 本をゆっくり読む。落ち着いて、物として本を手でしっかり持って、
 読む。お茶を飲んだり、鼻を掻いたりしながら、
 生きている実感を触りながら本を読む、
 それが喜びなんだと、思い出させてくれたひと。須賀敦子さん。

 大作家には数えられないであろうひと。

 でも、この詩人が言うように、
 人生そのものほどに生きる疲れを癒してくれるものは、ほかにない。

 須賀敦子さんはそのようなことばで、本を書いたのだ。


 
 
 
ウンベルト・サバ詩集


ウンベルト・サバ詩集

 
  Amazaoの書評: ウンベルト・サバはイタリアを代表する詩人であるが、その名前や作品は広く一般には知られていない気がする。

 サバの生まれはイタリア東北部のトリエステという港町。昔の繁栄やオーストリア支配下の頃の栄華は既になく、本文の中のトリエステの街は、何処となく寂しい感じがぬぐえない。サバの詩もそれに添うように何処となく寂しさを感じさせるが、決して陰鬱ではなく、愛する人を謳ったもの、トリエステの街並みを謳ったものとさまざま。強風の吹くトリエステの街を、そこに暮らす人々を、サバの心象が言葉となって、美しく時にせつなく、たんたんと謳われてゆく。
 須賀敦子さんの訳もまた、この作品のよさを一層引き立たせている。
 拾い読みをしたり、何度も読み返したくなる詩集です。