2007年5月4日金曜日

堅香子の花と娘女と春の水

物部(もののふ)の八十娘女(やそをとめ)らが汲みまがふ寺井の上の堅香子(かたかご)の花 (万葉集 四一四三・大伴家持)

物部と書いて「もののふ」と読み八十(やそ)に掛かるのですね。

もののふと云う「ものものしい」イメージが、数の多さを形容する八十(やそ)という言葉を呼び起こし、もののふ(男のイメージ)がするりと娘女(をとめ)らの、水汲みに行き来する賑やかさに転じたかと思うと、その情景に寺井(てらゐ)が見える様子が浮かんでくる。

多分寺井とは当時の先進施設の寺院に設えられた清水(井戸)で、堤で囲った貯水式の給水施設なのだと思う。

その井戸は丘の端にあり、見上げてすぐのあたりに、片栗の花が咲いていることに、作者は気づいたのだ。
春の日差しが花を引き立てて、その可憐さが、忙しく水汲みに立ち働く女たちの様子と、二重写しに見えているのだ。

家持くんの弾む気持ちが伝わってくる歌だ。
一時は目だっても、忽ち見えなくなるのが堅香子(かたくり)の花。
それは春の足どりのあわただしさでもあるのだけれど。


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