2013年10月1日火曜日

平家公達流亡之図に題す



 平家公達流亡之図に題す

孤鞍 遠く望む 半輪の秋

風笛 商声 散じ未だ休まず

異境の紅顔 残鬢の客

故情 忘じ難きを 那邊にか流る


  秋の夜 半月の懸かる天を仰ぐ一騎

  強風が高い音を起て吹きつのる

  異郷を落ちいく若者の鬢はほつれて

  昔の恩情は忘れがたいものの、
  何処へと流れていくこの身なのか



.

2013年9月26日木曜日

漢詩 : 懐旧有感



人生有漏未離縁  ○○●●●○○
空讀遺篇不可眠  ○●○○●●○
一夜寒蛩弦月下  ○●○○○●●
孤山早暁在吟邊  ○○●●●○○


人生有漏なるも 未だ縁を離れず
空しく遺篇を讀んで 眠るべからず
一夜 寒蛩 弦月の下
孤山 早暁 吟邊に在り

【自注】

 旧友を思う詩をもうひとつ。

 最近死去した一人の詩人を想って作詩しました。
 孤独に耐え抜いたという意味で剛毅なひとでした。
 三冊余の詩集を残しました。
 その詩集を開いて読みながら思いは過去へ。

 ベトナム戦争など激動する世界を見つめながら
 まっすぐに生きて行きたいという願い、その志を記した詩の数々。

 世に広くは知られる詩人ではなかった。
 けれども私にはずっと忘れずにいたい人と作品であり続けるでしょう。

:人生有漏: 仏教のいう有漏とは存在の有限性、不完全性、無常性でしょう。
:蛩: こおろぎ、 寒
蛩で晩秋から冬の蟋蟀を表します。
:絃: いと、 楽器の弦。 月如絃は月がきわめて細くなっている情景。

さて出来栄えはどうだろう。平仄や二四不同ニ六対などはOKか。
前半二句で人の状況後半二句で自然光景をという構図にはなっているが。


漢詩人の友人の助言を得て手直ししたものです。

.


2013年9月25日水曜日

俳句と漢詩 : 夕暮れの灯の下で秋を思う

渺渺として美人は 客夢に残す  星は移り落托して 燈を挑ぐるも寒し  旧盟未だ尽きずして 江山杳かなり  懐に氷心を抱きて 長く一歎す

こんにちは。晴れた一日になりそうです。

俳句と漢詩を同じモチーフで作り並べるという試みをして見ました。
漢詩の平仄は合っているはずですが他は自信ないのです。
俳句は新涼という季語を使いました。

新涼には、新しい、新鮮なというニュアンスがありますが、体に感じる涼気に気付くときの感じがこめられた言葉だ思います。

 新涼や胸は古傷有りと云ふ

自分では日常に埋没して日を送っていても、
季節の変わり目のひんやりした肌触りに秋を感じるとき
様々な人生行路の出来事を思い返したりします。

胸に古傷、ではなく胸が「古傷有り」と云うのです。
皆さんはそうでないかもしれませんが、
一つや二つ秋風に沁みて思い出される傷がありませんか?

漢詩もそういう情景を作ってみたのです。

渺渺(びょうびょう)と云うのは広々としておぼろなこと。
客夢は異郷にあって見る夢、旅人の夢。カクムとも読む。
残すはザンスと読む。ノコスではない。
星移は星霜に同じ。年月のたつこと。
落托は落ちぶれること。
挑燈は灯をかかげること。
旧盟は古い誓い、約束のこと。男女の契りの言葉でもある。
江山はここでは故郷の山河のイメージとして置きました。
杳(よう)ははるかに。
氷心は真心、清い心、澄みきった心。

 晩燈愁思

 渺渺美人客夢に残す
 星移落托、挑燈寒し
 旧盟未だ尽きず、江山杳かなり
 懐抱氷心、長一歎


2013年9月19日木曜日

俳句 : 台風

 


夜半中台風を聴き茶を啜る

台風の丘は一軒夜を怖る

道に被り出水は夜の田へ向かう

夜の声出水の村のまっ二つ

こゑ止まぬ夜更けの野分缶詰で

野分去り妻が顔拭く白タオル

台風の過ぎしタオルのあたたかや






2013年9月17日火曜日

漢詩 : 送別詩




一別衰翁思  一別 衰翁思う
白雲送客悲  白雲 送客の悲しきを
晴風吹露菊  晴風 露菊を吹けば
落雁水霄涯  雁は落つ 水霄の涯


霄=「しょう」空のこと



あっさり別れたこの別れ 老い衰えてのもの思い

白い雲へ客を送り ただ悲しむだけなのだ

晴れた日で 風は菊の露を溢して吹き

雁は落ちていく 遠い空と水の涯まで


.

2013年9月16日月曜日

漢詩 : 暈月愁思



風催帰燕過人閒

水映紅霞是往還

故侶故郷不息憶

秋声暈月対愁顔


風は帰燕を催(うなが)し 人閒に過(よぎ)る

水は紅霞を映し 是(ここ)に往還

故侶、 故郷   憶えば息まず

秋声、 暈月   愁顔に対す


燕に帰るをうながして
風は世間に吹き通る
夕焼け空の川に映え
ここに往還 あるばかり
ひとぞ 故郷ぞ 憶わるれ
尽きぬ思いの愁い顔
虫鳴く声に
月の暈

2013年9月13日金曜日

俳句 : 夜長の時期になって



 詩を賦すや誰に夜長の酒熱き

 きみいづこ花野のはづれ丘のうへ

 葛のはなこぼれて静か吾はあり

 数うれば蛾は三匹の夜学の燈