薄光る原を通らむ月出でし
薄光るその尾の浪に果てを見し
振り返るほど美しき夏の悔い
蜩は夜明けを待たじ夏逝きぬ
蜩=かなかな
月下美人
月下美人今宵顕になりし無知
げっかびじん こよい あらわになりし むち
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迎え火を焚かず我あり薄闇に
むかえびをたかずわれありうすやみに
なごり坂だらだらだらり盆の闇
まごりざかだらだらだらりぼんのやみ
盆過ぎの身のおとろへて庭潦
ぼんすぎてみのおとろえてにわたずみ
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我が裡の胸走り火や星流る
流れいく星に後れて吐息かな
流れたる星に声あり夜の川
「胸走り火」は造語ではありません。
「胸走り」と「走り火」が合わさってできた近世の言葉だと思います。
辞書にもあります。
星流るゝ見合うて失せし君の顔
号泣のその余は知らじ天の川
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我を余所に蟻は列なす黙々と
夏の夜の鏡に光る眼に見入る
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客僧の食い残したる芋の端
芋は秋の季語ですが、俳句では里芋を指すことばです。
ここでは客僧は旅の僧でも他の寺に身を寄せる僧でもなく、
法事や法話に招かれた招待された僧侶を指しています。
接待する側はそれなりに気をつかっていろいろと出すのですが、
田舎のことゆえ不調法でもあり、また量の多さも度外れだったりで。
余す気の無い僧の方も持て余して詫びて箸を置くわけです。
そんな情景を詠んでみたつもりです。
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