吹き当たり風雲を抱き冬へ入る
読みかけに恋は残りぬ初時雨
返す書うかばぬことば夕時雨
冬のやど朝餉の粥の湯気多し
板の間へいっぱいに射して冬の日
湯気を追う風途切れずに冬木立
冬日さす湯気を證として静か
はなもなき一日なりしが冬に入る
皃寄せて葛湯呉るゝが猫の様
差し湯して飲む薬にも冬到来
冬日射す小瓶の中味濁りたる
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はるえみていっせんのわざあゆみきぬ
春微笑て一旋の技歩み来ぬ
大車輪の得意な小柄な君であった。
いつも一旋回して笑顔でよぉーと
ひとなつかしい君であった。
女性に優しい君から粗暴なぼくは多くを学んで
若い大人になっていった。
居場所は遠く離れても志を共にして
ずっと一緒だったと言える君だった。
かつて駅で友達とともに
旅立つぼくを 送りに来てくれた君だった。
今君はひとり旅立っていった。
ぼくはひとり、ひとりで君を送る、
君を永遠へ。
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長歌:
わが内を ひとは去りゆく
わが内を 友は去りゆく
ものなべて ちひさく昏く
なほ 遠ざかる
反歌:
もみぢつむ
ときの奥処に もみぢつむ
庭ははだかの はたちのこころ
近年はやはり出会いよりも別離が多い。しかも永訣であることが。
15歳から25歳くらいの間に家族以上の密接さで関わり合っていた友もふくまれている。
これは万葉長歌風の一首合わせて反歌である。
古風過ぎよう。
しかし出てきたのはこれ、妙なものである。
しかし自分の心情がそのまま出せているような気もする。
それでここに出しておこうと 思う。
赤く腫れていたのかもしれないあのころの自分たちの心。
今では遥かなり紅葉のごとし。
湿っぽくない挽歌として、
我が朋友 TOSHIYUKI MIYOSHI に捧げる。
銀杏の葉大きなきいろ奈良を踏む
さまさまさ僧掃きそむる銀杏の葉
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母の居ぬ少童の目や冬の海
雲分かれ射し照る冬日遠き湖
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虹の背にこの子預けて往こうかな
虹は夏の季語だったかな