――――茅屋穀雨に濡れて宵に蟇来る
春むげん 我にさ渡る蟇の声
身を処せる蟇如何にせむ 穀雨の夜
穀雨降り蟇の面を濡らす夜
如何なれば此処選みしか 春の蟇
この一夜 穀雨に濡らす互いの手
物凄き春をひとりか 花あらし
花冷えや何を託ちて温るき風呂
遠くゐて あなたに似てる花いちご
レスメール こころちぎれて花の闇
渦潮に友の大声暮れそむる
うずしほにとものおほごゑくれそむる
素裸のみ魂ゆららに涅槃西風
すはだかのみたまゆららにねはんにし
埋もれて梅花に染みし細おもて
花蔭も明るし妻や梅に寄れ
亡き義母に似て来ぬ妻や白き梅
そら甘く風止みがちの岡の梅
遠く見て梅花まで至るそぞろ脚
千億の梅花 千億がみな佛心
開けきらぬ春に胡曲とベンシャーン
龍昇る 龍穴に出入りの小商人
りゅうのぼる あなにでいりの こあきなひ
山背のやま笑う 風明るんで
やましろのやまわらう かぜあかるんで
蕗の薹 木津川辺の朝餉かな
ふきのとう きづがわへんの あさげかな
春の風京に向かってのる電車
はるのかぜ きょうにむかって のるでんしゃ
卒業や居ぬ児も共に並ぶあり
そつぎょうやゐぬこもともにならぶあり
海去りき 百花に相別れ卒業す
うみさりき ひゃっかに わかれそつぎょうす