嫦娥を題材にした詩なのです。
最後の部分で
李商隠は嫦娥は悔やんでいるのかもしれない
と結んでいます。
その一句に
眉根を顰めた
中国美人の表情を思い浮かべます。
まして嫦娥は仙女
美人でないはずはありません。
何を悔いているというのでしょうか…
月に棲むという嫦娥。
嫦娥は
夫を裏切った女。
不老不死の仙薬を
西王母から得た夫の目を盗んで
持ち逃げして
飲んでしまったのですね。
いつまでも若く美しくありたい
そんな欲に惑わされて…
月に見える影が
人に見えたり
兎に見えたり…
でも
それが蟾蜍(ひきがえる)
に見えたら
天帝によって
姿を変えられた
嫦娥なのだという
伝説もあります。
嫦娥の涙。
ひとしずくの涙の訳は?
おとこには
ついぞ解らぬ哀しみなのかもしれません。
303 嫦娥 李商隱
雲母屏風燭影深 雲母の屏風 燭影深く 長河漸落曉星沈 長河 漸く落ち 曉星沈む 嫦娥應悔偸靈藥 嫦娥 應に悔ゆべし 靈藥偸みしことを 碧海青天夜夜心 碧海青天 夜夜の心
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雲母を散らしたきらきら輝く屏風が燭台の蝋燭の灯に照らされている影深い夜中
夜空を横断する長大な銀河もようやく西のほうへ落ちかかり早暁を告げる金星ももはや沈んでいくころ
長い夜を過ごした天空の仙女.嫦娥はきっと悔やんでいるのにちがいあるまい、夫から霊薬を盗んで逃げ去ったことを
何処までもつづく青い海原に似た蒼穹に住んでも、ただ長いばかりの、夜という夜を過ごすよりない、その尽きない寂しさ…